「これまであんなふうにおれを信じてくれた人間はだれもいなかった。
きっとおれは、生まれてこのかた、
本当に自分を信じてくれる人間をずっと待っていたんだよ」
-ダニエル・キイス 『心の鏡』 P281より-
保護色。
その鋭い感受性で、相手の感情をすばやく感知し、
相手が“彼に望んでいる”行動をする。
そう、鏡のように。
マロというテレパスの説得という任務を遂行する中で、デニスは彼の特質に気づく。
そして、彼を説得するには、彼を信じきること以外にないという結論にたどり着く。
マロが演じるのは、人々の“シャドウ-影”なのだろう。
だから嫌われる。
それは、本人が見たくないものだから。
そして、それを演じなければならない彼もまた、傷ついている。
そんな彼を見て、デニスは己のシャドウに気づく。
変わらなければならないのは自分のほうなのだ、と。
人を愛することができないのは、人を信じることができないのは、
昔、父親から教わった教訓-ひとを決して信用してはいけない-のため。
今は、そんな自分を変えるのに必要な時期なのだ、と。
そして、変わりたいと願う自分もいた。
自分の命を委ねることで信頼を勝ち取り、彼は説得を受け入れ、未来へと旅立つ。
そこは昔、バベルの塔が築かれた時のような、ひどい混乱が起きている場所。
言葉が全て意味を失い、相手が何を望んでいるかわからない、理解しえない状態。
ことばが話せるマロなら、きっと混乱の収拾に、平和に貢献できるのだろう。
僕の、カウンセリングの原点がこの1冊の本。
相手を変えるのではなく、気づくことによって変わってもらうこと。
ほとんどの人が、シャドウから目を背けて生きている。
でも、シャドウのパワーは計り知れない。
目を背けている限りは、彼は敵となって自分を苦しめ続ける。
もし、彼をうまく味方に引き入れられたなら、充実した生活を送れるのだろうな。
相反するものを融合することで新しい力を生み出す、それが“錬金術”だと思う。
シャドウを受け入れ、新しい自分になることが、幸せの第一歩だと、僕は信じる。
【追記】
「内部の自分はそれに反対した。
もしまちがっていたら?
もしマロが、わたしの信じているような人間ではなかったら?
もし彼が私をとめてくれなかったら?」
-ダニエル・キイス 『心の鏡』 P277より-
人が決心をしたときに現れる、
それを否定する観念-グレムリン-による葛藤。
再読してみて改めて気づいたことに、成長してるのかな?なんて考えてみたり。
変わることは難しい。
グレムリンに負けない力を身につけること、それも必要なのだろうな。
もしかしたら、それこそがNLPが担う分野なのだろうか。